【読書感想文】伊与原新/宙わたる教室【イライラの原因はコミュニケーション不足かも】

伊与原新 宙わたる教室

伊与原新/宙わたる教室

夏休みの宿題といえば、読書感想文。ということで、2024年読書感想文全国コンクールの課題図書「宙わたる教室」を読んでみました。

本書にはいくつもテーマがあると感じましたが、私が最も強く感じたのは「人間関係はコミュニケーションが全て」ということです。

定時制高校で起こる世代間の確執

舞台は定時制高校。定時制は全日制高校と比較するとさまざまなバックグラウンドを持った人たちが通います。本書でも、20代のヤンチャな青年である柳田岳人を中心に、10代〜70代まで幅広い世代の登場人物たちがクラスメイトとして同じ教室に通っています。

そんな中で、若いクラスメイトたちから疎ましく思われているのが70代の長嶺省造です。授業ではいつも前方の席に座り、教師に熱心に質問をする真面目な長嶺。ですが、授業を止めてたくさんの質問をし、さらにその質問があまり要領を得ていないことも多々あり、周囲の生徒たちをイライラさせているのです。

一方の長嶺も、クラスの若い生徒たちが理解できないと考えています。授業にまるで集中していなかったり、来ているけど息を潜めるそうに過ごしている彼らに、「せっかく学校に通っているのになぜ?」と疑問しかありません。

自身が若い頃に学校に通えず、仕事も落ち着いてからやっと定時制高校に通うことができた長嶺からすると、熱心に授業に取り組むのはとても自然な行為なのです。

お互いに少し背景を知れば、同じ行動も印象が変わる

そんなある日、ある事件が起こります。それを境に長嶺と若い生徒たちとの間に決定的な溝が生まれます。その状況を見たクラス担任の藤竹が提案したのは、長嶺がクラスメイトの前で自身の生い立ちについて話す、というものでした。

長嶺(正確には長嶺の妻)のこれまでの人生について話を聞いたクラスメイトたちは、彼の考えを理解するとまではいかずとも、彼の行動について文句を言うことはなくなりました。

一方で長嶺も、妻との会話から現代の若者の苦しみについて考えます。自分が若い時代とはまた別の苦労や難しさがあることに気がついたのです。

これを機に教室内の雰囲気が少し良くなります。この時、それぞれの行動はあまり変わっていません。ただ、お互いに少し相手のことを知ったということだけです。

定時制高校は、ほとんどが地元の中学から上がってくる全日制に比べると年齢、各人のバックグラウンドもさまざまです。その分、お互いに共有できる感覚が少なく、理解できないことも多くなるでしょう。そこでお互いに相手の一部を知ることで、今まで疑問に感じていた相手の行動に対する印象が変わったのです。

そのイライラ、コミュニケーション不足が原因かも?

この本の登場人物たちのように、私たちも世代の異なる人間に対してイライラすることがあります。誰しも自分の親や子どもに「何でそんなことをするの!」「何で理解してくれないの!」と思ったことは一度や二度ではないはずです。

そして不思議なことに、家族や友人など相手が身近であるほど、理解できない/されないことに余計に腹が立つものです。

でも、今よりもう少し相手の行動の背景を知ることができれば、そのイライラはおさまるかもしれません。

私も日常生活で、夫や子供にイライラすることがあります。でも、私は彼らの家での姿しか見ていません。会社や保育園で何があったかは、話さない限りわかりません。「今日はどうだった?」と一言声をかければ、何か事情がわかって、こっちの気持ちも少し穏やかになるかもしれません。

相手が教えてくれなければ、想像するだけでも構わないと思います。でも、一歩踏み出して声をかけてみる。それだけで少し関係が変わっていくと思うのです。

伊与原新/宙わたる教室

お知らせ|2024年8月【宙わたる教室】読書会

2024年8月21日10:00〜【宙わたる教室】オンライン読書会を開催します!

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