【読書感想文】江國香織 去年の雪【世の中ってこういうもの】

江國香織 去年の雪

久しぶりに江國香織さんの小説を読みました。タイトルは「去年の雪」とかいて「こぞのゆき」と読むそうです。

ざっくり内容:膨大な数の主人公が織りなす世界

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とっても変わった小説でした。何が変わっているかって、主人公がたっっっくさんいるのです。

本書の中ではある1人の青年の目線で話が展開されていたかと思うと、その青年とすれ違った少女の話に移る。その次はその少女を見ていた女性が・・・という風に、2、3ページ毎にどんどん主人公が移り変わっていきます。まるで3分おきにシーンが変わる映画を見ているかのようです。

主人公は、学校が嫌いなわけではないけどサボっている少女、妻の小言が理解できない夫、高校時代の友人とご飯を食べながら職場や恋愛のことを話す若い女性たち、親戚の子が犯罪者となってしまい弱り果てた初老の男性、子育てに没頭しながらも昔のことを思い出す主婦など、年齢も性別もさまざま。時には全く違う時代に生きる人々だったり、動物だったり、すでに死んでしまっている幽霊であったりします。

小さな子供から老人、違う時代を生きる人物や動物(!)までの気持ちを、理解して表現できてしまう江國さんの力に感心、脱帽、敬服。

考えたこと:世の中とはこういうもの

今、自分は、自分の目線で、自分の人生を生きています。でも、マンションの壁を隔てた隣にはそこに住んでいる人の人生が、その人の視点で繰り広げられています。家を一歩出れば、公園で遊ぶあの子供たちはめんどうな友人に悩んでいるかもしれないし、道ですれ違ったあの人はもしかしたら息子がなかなか結婚しなくて心配しているかもしれない。わたしが普段いろいろ経験しているように、どの人も何かしら考えながら生きている。それが無数に存在しているのがこの世界なのです。

そんな風にこの世に無限に存在する様々な出来ごとを考えると、自分が空高く飛ぶ鳥の視点を手に入れたかのような気持ちになるのと同時に、多種多様で膨大な数の、でも一つ一つがかけがえのない人生に、すーっと倒れてしまいそうなぐらい気が遠くなります。

普段生活している中でどれだけ自分の目線でしか物事を考えていないかというのを突きつけられたような気持ちにもなりました。

こんな人にオススメ:時間がない人にも

この小説、たくさんの人に読んでほしいです。個人的には、自分の人生に必死になって周りが見えなくなってしまい、ちょっとしんどいなーと思っている人に読んでほしい。すっと自分の視点から一歩引いて、目の前にあるできごとを眺められるようになると思います。

また、じっくり良い小説が読みたいけど読書の時間があまり取れないという人にもおすすめです。約270ページと全体だとそれなりのボリュームはあるのですが、一つ一つの話は数ページで完結しているので細切れでしか読めない人にちょうどいいのではないかと思います。

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げんだちょふが初めて読んだ江國さんの作品は「落下する夕方」でした。

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