ロシアの夏 空と雲とアイスクリーム

みなさま、ずどらーすとびーちぇ!本日もご訪問いただきましてありがとうございます。

冬が終わり、日増しに日照時間が長くなり、公園にも花が咲き始めるころ(ただしそれは春先に人工的に既に花の咲いた苗が植えられるのだ)、屋外にいつのまにか現れるアイスクリーム屋さん。それはちょうど日本の夏祭りの屋台と同じぐらいの大きさで、夏の強い日差しから売り子さんを守ってくれる屋根は青と白を基調とした、夏の雲と空を彷彿とさせるなんとも爽やか色で、その屋根の下に視線を移すとふくよかな妙齢の女性がニコリともせずにお客さんを待っている(これぞロシアだとわたしは思う)、ステキなアイスクリーム屋さんなのです。

この屋台は、茶色のコーンに自分で選んだアイスを丸くすくってポコンと乗せてくれる、気の利いたサービスを行うものではなく、スーパーで売っている袋入りのアイスクリームをそのままストレートに売っています。そして値段はスーパーで購入するより若干高く設定されています。

しかし、それでもこの屋台でアイスクリームを購入する人がいるのは、ロシアの人にとって「夏に屋外を散歩する」というのが、この上なく貴重な行為だから、だと考えています。かくいうわたしも、強い日差しや長くなる日照時間など、夏の気配を少しでも感じるものなら、たとえ気温がまだ20℃に満たなくても、各種SNSに「夏がくるぞ!」と書き込む程度には、夏を楽しみにしているのです。そんな、いつになくハイテンションな中、散歩中に青と白のボーダーをみかけると、不思議な力で吸い寄せられるかのように、足が自然と向かうのです。

アイスクリームの妖精

その日もそうでした。6月上旬、今年は例年と比べて非常に気温が高く、30℃近い日が続いていました。「特に目的地はないけど、夏だからとりあえず外に出ないともったいない」という「まだあるけど、特売だからトイレットペーペー買わないともったいない」にも似た心持ちで、強い日差しが降り注ぐ外の世界へ出向いたのであります。

勢いよく家を出たものの行くあてもなく、「散歩というよりこれは徘徊だ」と考えながら歩いていると、前方100mほど先にアイスクリーム屋さんを発見しました。アラサー女が1人でアイスを食べながら歩く様はあまり見ていて気持ちのよいものではないかもしれませんが、残念なことにそんな恥じらいは日本に置いてきてしまいました。日本のどこに置いてきたのかは定かではありませんが、帰ったら探してみようと思います。

「アイス屋さんまっしぐら」をしていると、突然、「暑いよね」と話しかけられました。声のする方を振り返ると、見知らぬおじさんがわたしに話しかけていました。しばらく彼と会話しながら並行して歩くことに。しかし、最初の「暑いよね」以外は何を言っているのか全く分からず、曖昧な笑顔で「はいはい」と対応、納得したのか話が通じないことに気づいたのか、彼はわたしを抜き去っていきました。

彼の背中を目で追うと、わたしが目指しているアイス屋さんに向かっています。先に到着し、アイス屋の妙齢の女性と親しげに世間話をしていた彼は、わたしに気づき「あれ、君もここに向かってたの?」と、驚いた様子。

またしても曖昧に笑うわたしに対し、次に彼が言ったのは「好きなの選びなよ」と言う、予想していない言葉でした。頭フル回転、片言ロシア語を駆使して「ワタシ、ジブンで、ハライます!」とかろうじて応じるものの、「いや、大した値段じゃないし」という、おじさん。

アイスは1つ70ルーブルで、日本円に換算すると100円ちょっとで、でもロシア人の平均給与は日本より少ないはずだから、ロシアの人の体感で換算すると日本人の肌感覚よりだいぶ高いはず。それはさっきちょっと話をしただけのどこぞの見知らぬ外国人におごる金額として妥当なのか。いや、もしかして彼、実はヤロスラブリでは名の知れた金持ちで、彼の言葉のとおり大した値段じゃないと思っているのか。いやいや、そんな人が平日の昼間に公園を散歩してる?いやいやいや、逆にそんな人だからこそ平日の昼間に散歩できるのか?いや待て、これはもしかしたら罠であり、このアイスをおごられたが最後、「アイスをおごってもらったからには断れない」という後ろめたさにつけこまれ、「お茶しない?」とかなんとか言われて見知らぬ場所に連れていかれ、何か怪しいビジネスに勧誘されるのではないか。

「知らないおじさんには、例えお菓子を貰おうとも、絶対ついて行ったらダメ」という幼い頃の母の教えが脳裡に浮かび、もう一度「いいです」と断るも、「遠慮しないで」というおじさん。アイス屋の女性の生ぬるい視線を感じながら、このやり取りを数回繰り返した後に、おじさんに負けるという情けない形でおごってもらってしまいました。

冷凍庫の中にずらりと並んだアイスクリームの中から、チョコレート味のコーン付きのアイスを選び、「本当にありがとう」と言って別れた後、わたしが想像したような怖いことは何も発生しませんでした。ドラマの見過ぎで自分の心が汚れていました。疑ってすみません。

こんな風に、理由もなくわたしにアイスをおごってくれる知らないおじさんは、これが人生で最初で最後でしょう。

では、今回も最後まで読んでいただきましてありがとうございました!

だすびだーにゃ!

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アイスクリーム屋さんの写真あり〼。実際こんなのか、という雰囲気が分かるかと。